「1年間日本一周、作品制作の旅」057 ステージ04山形宮城その6



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鳴子温泉。

何となく聞いたことあるのだけれど、実際のところ、よく知らない。


鳴子温泉に宿泊の予定はなかったのだけれど、時間があるのとちょうど通り道だったので、駐車場に車を止めてちょっと散歩をしていた。

「ねぇねぇ、ご飯探してるの?」

軽自動車に乗った50代も後半のおじさんが、窓から声を掛ける。

「いや、あの、お散歩しながら、写真撮ってるんです」


このおじさんは、奥さんが郵便局での用事が終わるのを待っているらしい。

何か分からないが、切れ味のいい顔で、うん、元はかなりの男前だ。

窓枠に肘を掛け、首を傾けた感じで、妙に近い感じで話し掛けてくる。

今は軽だが、きっと昔は流行りの車に乗り、こんな感じで女の子をナンパしていたに違いない。

で、その時ナンパされたのが、今、郵便局から出てきたこの人なのだろう。


「温泉入ったの?」

うんと、たった今、写真を撮りながら散歩しているって言ったはずなんだが。

「あ、いや、入ってないです」

「だめだよ、入んなきゃ。鳴子温泉は、日本一なんだよ」

「?」

「鳴子温泉はね、泉質の種類が日本一なんだよ」


あ、そうか、温泉だけとってもいろんな日本一があるもんだ。


「じゃあ、ここ入りなよ」

この郵便局の隣の黄色い建物は、早稲田の湯という共同浴場らしい。

そこから延々と、早稲田の湯についての説明が始まる。

奥さんは、そんな旦那を見守っている。


「そうだ、滝の湯は入ったの?」

いや、だから、鳴子温泉は入ってないってば。

「滝の湯、行かなきゃだめだ。その道上がって、角を右に行って、突き当りを左だから」


すごいなこの人。

こう、極端に親切というか、サービス精神が旺盛というか、いずれにしても悪気がない。

そして、このサービスを受ける方も、嫌な感じがしないんだ、まったく。

そこがすごいんだ。

これだけしつこいのに嫌な感じがしなくて、「じゃあ、ちょっと行ってみますね」って言おうとしている自分がいるんだ。

まあ、何だろう、このおじさんの年季の入ったナンパのテクニックなのだろうかと、ちょっと感心しちゃったんだ。


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