「1年間日本一周、作品制作の旅」040 ステージ02秋田岩手その11
早池峰神社からの帰り道、来るときに通った道の脇に変わった橋が架かっていた。
欄干やらアーチ部分が木製で、なのに地面は舗装されていて普通に車も走るような橋。
大きくはない。
それに惹かれて車を駐車したのだけれど、その先に『重湍渓』という看板を掲げた駐車場があるのを見つけた。
それが何なのかはよく分からないのだけれど、その先に何かありそうだということで少し車で走ってみる。
最初は見逃してしまったのだけれど、戻りがてら降り口の看板を見つけたので、車を止めて河原に降りてみる。
河原と言っても、渓流なので岩。
もっと正確に言うと、岩と言うよりも、下の岩盤が露出している感じ。
まあ綺麗なこと。
景色に見とれているとくさんのずいぶんと後ろで、加藤さんは川沿いの草むらをのぞき込んでいる。
「どうしたの?」
「いる!」
何が「いる」なのかは、我々の間で確認をする必要はない。
言わずとも、それがブヨであることは間違いない。
そう、加藤さんのブヨに対する敵対心は、並大抵、生半可なものではないのだ。
「ブヨ」・・・普通は、何かハエか何かみたいなやつと思うだろうし、一般的に、アブとブヨは頭の中で十分に整理をされることなく、何となく、ごちゃまぜにされたままだろう。
とくさんたちも、何年か前までは、そんな感じだった。
あれは、6月だったか、7月の初めだったか、伊豆の湯ヶ島という温泉地に出かけた時の事だった。
そこには、とてもきれいな川が流れていて、その川から引いた水路が歩道よりも高いところを流れているというちょっと不思議な場所がある。
その事件は、そのあたりを散歩しながら写真を撮っていた時に起きた。
気が付くと、スカートをはいていた加藤さんの両脚の膝から下あたりから、少なくない数の血が流れている。
その時は、トゲのある植物か何かに引っ掛けたのかと思っていたのだけれど、まさかそれがブヨに噛まれた痕で、傷からの出血だったとは、二人とも思わなかった。
水路をまたいで、花の写真を撮影している加藤さんだったのだけれど、どうやら、その間にやられたらしい。
蚊と違って刺すのではなく、皮膚をあごの力で食いちぎるということなので、やられたところが傷になり、出血まですることになるらしい。
加藤さんの両脚を何本もの鮮血が細い痕を作っていた。
色々と知らべ、「もしかしたらブヨなのかも」というところから、旅館の部屋の浴室に水を溜めてひたすら足を冷やす時間が続く。
『いや~、温泉旅館に来て、温泉じゃなくて、水に入るのは、ある意味、贅沢だなぁ』などという、くだらない冗談を言っているような状況ではなかった。
それぞれの刺された痕の半径3、4センチが、だんだんと腫れ上がる。
それが、両脚で10か所以上に及んでいる。
今なら対応もわかるし、その前に、そうならない予防できるのだけれど、その時は、もう、どうしていいのかわからず、二人してひたすらに冷やしていた。
痛みを伴うかゆみと腫れ上がりは帰ってからが本番で、膝を曲げられないような状況が、数週間続いた。
そんなことがあり、加藤さんは、ブヨは許さない。
彼女は、とくさんや死に際のセミなど、あらゆる命に対して優しいのだけれど、ブヨだけは許さないのだ。
ただ、ここではすでに大量のトンボが出てきているので、彼らのご飯でもあるブヨを無駄に殺す必要はなく、この日は、にらみを利かせ、怯えさせるだけで終了。
そうして、加藤さんとブヨ血で血を洗う戦いは回避されたのだった。
さて、ということで、先を急ぐとしよう。
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